カナダに漂着したハーレーは東日本大震災の津波で流されたもの

カナダのミルウォーキーにあるハーレー博物館には、一台のナイト・トレインが置かれています。そこに展示されているハーレーはボロボロで、お世辞にも価値があるようには思えません。プレートに刻まれた文字はかすれているだけでなく異国の言葉で記述されているので、現地の人間には読めないでしょう。そこにはひらがなでただ、みやぎとだけ書かれていました。このハーレーの持ち主はミヤギイクオという日本人でした。彼は東日本大震災で被災して、三人の家族を失った人物です。ミヤギ氏のハーレーは津波によってコンテナごと流され、太平洋を渡りカナダのブリティッシュ・コロンビア州にある島に打ち上がられたのです。発見されたのは2012年の4月18日、震災から一年近くの時間がすでに経っていました。

東日本大震災の津波

発見した人物は少ない情報から、懸命に持ち主を探しました。苦労のかいがあり連絡先を入手した彼は、親切にも発見したハーレーをきれいに整備した上で日本に送ろうと提案したのです。しかし持ち主のミヤギ氏は、その提案を拒否しました。彼はこの震災で自分も含めて多くの人間がたくさんのものを失っているので、自分だけハーレーを受けとるわけにはいかないといったのです。その上でミヤギ氏は東日本大震災によって失われた命を悼むために、漂着したナイト・トレインをハーレー博物館に展示して欲しいというささやかなお願いをしました。

ミヤギ氏のささやかな願いは博物館の館員によって叶えられました。今でも漂着したハーレーは錆びた姿のまま博物館の一部を占有して、来館した人に奇跡がこの世界にあることを示しています。6000キロを流れついたハーレーは、当時の姿を留めているとは言いがたいでしょう。潮風による腐食が進み、少しずつ形が崩れてきているのです。しかしたとえその姿が失われていこうとも、それを見た人に鮮烈な印象を残すことは確かなことでしょう。展示されたハーレーには自身も被災者であるにも関わらず、死んでいった人々のことを第一に考えたミヤギ氏の思いがつまっているのです。